アカペラアレンジ15年。学んだこと総まとめ
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ブラザーです。
先日、所属している社会人サークルオトナリのサークルライブが開催されました。なんと、そのライブが次で10回目を迎えるそうです!時間が経つのは早いですね。
さて、僕がアカペラを始めてから15年目に突入しようとしています。また、楽譜アレンジをはじめたのも同じ頃なので、アレンジャーとしても15年目になろうとしているわけです。
「アレンジって難しそう」
「だんだん自分のアレンジが迷子になってきた」
「他のアレンジャーはどのような気持ちなのだろう」
「音楽の勉強してなくてもアレンジはできるのか」
といったように、アレンジに対しての印象は皆さん様々でしょう。
今回は「アレンジ」について「15年続けてきて学んだこと」を一気にまとめて書きます!!!!ただ、あまりに細かいところまで踏み込むと終わりがないので、優先度として高い大事な内容を記載したいと思います。
「アレンジ楽しそうだな」
「挑戦してみたいな」
「今まで感じたことがなかったな」
このように思っていただけるように書きました。
なお、先程から述べている「アレンジ」は、アカペラ向けの楽譜編曲、またはオリジナルソングの作曲を「アレンジ」として記載します。また、持論が多く含まれる内容であり、「それは違うでしょ」と思うこともあるでしょう。アレンジについての考え方に正解はないと言うこと、先に述べさせていただきます。
アカペラアレンジのスタート
アレンジの良さは経験年数に比例するのか
アレンジを始めたきっかけは暇だったから?
模索から学んだこと
そのようなスタートから15年。
かれこれ150曲以上を書いてきましたが、今思えば模索した最初の3年間と、あとは1曲書くたびに新しい発見に出会えていた感じでした。しかし、模索する時間が長かったことから、もっと沢山のアレンジャーの意見を聞いたり、沢山のアカペラ楽譜に触れていれば、学生時代によりいい楽譜を書けていたかもしれません。今更、過去の作品にケチをつけるわけではありません。作ったものは、妥協せずベストを尽くしています。さらに成長するには、「効率よく経験を積む」必要があったということです。
効率よく経験を積む3つの方法
僕が考える3つの方法は・・・
1.自分の好きなアカペラ楽譜を観察する
2.アレンジャーに楽譜を依頼する
3.頭の中に楽譜をイメージする練習
この3つだと思います。それぞれ解説していきます。
自分の好きなアカペラ楽譜を観察する
この「好き」については、自分が好きなアーティストをアカペラでカバーしているバンド、またはあなたの身近な存在のバンド(先輩など)をピックアップすると良いです。
まず、その楽譜を見る機会を作ってほしいです。
そのためには、ただ楽譜を見せてほしいではなく、
「アレンジの勉強がしたいので、楽譜を拝見させていただけないでしょうか」
と伝えてください。アレンジャーとしても嬉しいと思います。
では、「観察する」とは。
まず、必ず楽譜ソフトに打ち込むようにしてください。
これは打ち込むことで、1音1音意識して観察できるからです。
打ち込み終わったら、過去自分が作った楽譜や作ったことがなければ自分ならどうアカペラにするか頭の中でイメージして、打ち込んだ楽譜と比べてみてください。アレンジの第一歩でやりがちなのは楽譜制作に満足して終わることです。まず、他のアレンジャーや憧れているバンドの楽譜と比較してヒントを得ることの癖をつけておくことが大事です。
そして、得たものは真似する能力を身につけることです。
アレンジャーに楽譜を依頼する
2つ目は、自分が上手だなと感じるアレンジャーに楽譜を依頼することです。
「え?自分で書いてないの」と思うかもしれませんが、他人が書いた楽譜を演奏してこそわかることも多いです。
TwitterなどSNSで楽譜作成依頼を公募しているアレンジャーも多く、また楽譜の一部を公開しているアレンジャーもいます。または楽譜を購入するのも一つです。そして、実際に演奏した中で感じたことは楽譜にメモすることを忘れないでください。
例えば、「ここのハモリ気持ちいいな」とか「ベースラインかっこいいな」とか。よく楽譜のメモは音楽的なことを書くべきと思う人もいますが、抽象的なことでOKです。むしろ、観察して発見することが大事です。
楽譜の購入場所でおすすめは、King of Tinyroomです。
僕もいくつか楽譜を掲載していますが、KTRの取り扱い楽譜1000曲以上なので大抵はあります。(便利な世の中ですね)
頭の中に楽譜をイメージする練習
先程の、自分ならどのようにアレンジするかイメージするとはまた違います。ここでのイメージは、「音価」に着目することです。
音価とは、楽譜上での音の長さを言います。
何故、音価を意識する必要があるのかというと、思いついたメロディーや好きなフレーズを楽譜に落とし込めるようになるためです。最初はできなくて当然なので、全然焦る必要はありません。しかし、これを意識的に練習するのとしないのではアレンジのしやすさが変わってきます。僕もこの意識をしてアカペラを聞くようになってからは、自分でオリジナルフレーズを作ったりするときに、すぐ楽譜に落とし込みやすくなりました。
楽譜を読めないのは当然
ご紹介した3つの方法が、効率よく経験を積むうえでのアクションだと思っています。
ところで、「楽譜を読めるようになってからアレンジをするべき!!」
と思っている方・・・それは、「サッカーのルールを理解してからサッカーをするべき」と言っているのと一緒です。
たしかに、アレンジャーには中学高校で音楽に触れ、コード理論やバロック音楽、和声について理解している人もいます。しかし、大学から楽譜を読めるようになったというアレンジャーも多いです。僕もドレミが五線譜のどこかを覚えたのは大学からです。
楽譜も言葉と一緒で、伝えたいことを音符という記号で表現したものです。そのような記号をいきなり読めと言われても、そりゃ読めないのは当然です。読めないことに対して悲観する必要はありません。むしろ、経験から徐々に身につけていけるので何の問題もありません。
第一歩は楽譜を打ち込むこと
ではアレンジを始めたいと言う人は、最初は何から行うべきでしょうか。
僕は「効率よく経験を積む」で書いたように
「観察する」ことからスタートするために、
一曲楽譜ソフトに打ち込むことからはじめるといいと思います。
楽譜ソフトは有料ソフトである必要はありません。
無料ソフトmusescoreで十分機能は備わっています。
ちなみに、僕が一番最初に打ち込んだのは、
劇的ビフォーアフターの主題歌「匠」
という曲でピアノ伴奏楽譜でした。
自分で打ち込んだ楽譜が、ソフトを介して当然ですが音が出ることに感動したことを覚えています。しかし、今思えばアカペラ譜面にして、その後のアレンジに活かせるような形にすべきだったなと思います。さらに、楽譜を打ち込むところからスタートした際に、少し意識するといいことは「音域(五線譜のどこの範囲を選択しているか)」です。音域で悩むアレンジャーは非常に多いので、第一歩目から意識しておく癖が大事です。
過去にアカペラアレンジのスタートについて記事を書きましたので、詳細はそちらをご覧いただけると嬉しいです。
とにかく聴く、とにかく好きになる
「アカペラが上手くなるにはどうしたらいいですか」
と大学の頃によく後輩から質問を受けていました。
後輩には「1日どれだけの時間アカペラを聴いているか」と質問していました。
すると全く聴いていなかったり、10分/日くらいと言う回答が多かったです。
やはりうまくなりたいのであれば、
好きになることは大事なことだと思います。
好きなアカペラバンドを見つけて、それを何回も聞くうちにアカペラが自然と好きになると思います。この「とにかく聴く」は、今後アレンジを行う中で”素材を集める”時に役立ちます。「このコーラスライン素敵だな」「この字ハモ素敵だな」など、好きになったことを自分のバンドのアレンジに生かすことは、アレンジャーにとってとても大事なことです。これがまさに、最初に書いた得たものは真似する能力です
ここまで、アレンジャーのスタートとして意識することについて書いてきました。このあと養っていくべきことは「感覚」です。音楽で「感覚」はすごく大事なことで、楽典の知識がなくても「感覚」の話であれば誰でもできます。アレンジャーにとっては、楽譜の方向性を決める際に「感覚且つイメージを作譜」するわけなので、特に感覚を養う必要があります。そして、その後に「間隔」について触れていきます。そう、音楽は「感覚」と「間隔」で話すことができます。第二章では、よりアレンジの話を深堀しながら、「感覚と間隔」の話をしていきます。
感覚と間隔のテクニック
自分の楽譜を眺めてみる
突然ですが、楽譜を眺めてください。
自分で打ち込んだ楽譜でも
グループで練習している楽譜でも
新入生の場合は最初の練習で配られた楽譜でも
どんな楽譜でも大丈夫です。
上級生やアカペラをある程度の年数経験された方が、
「今更楽譜を眺める必要があるのか」と思うでしょう。
しかし、僕は楽譜を配られてから暗譜まで、
自分のパートだけ眺める人がほとんどだと思っています。
楽譜は見ているようで見ておらず、実は全体を眺めるとアレンジャーの意図がたくさん詰まっているのに、自分のパートだけ見てあとは合わせる時に音を確認する程度ということが多いのではないでしょうか。
では、どのように眺めればいいのか。
一番簡単なのは全パートの縦を確認すること、音符がどのように動いているか薄く線で引いてみること。コードまで確認できればベストですが、そこまでしなくても上の2つだけで十分です。
縦を見ることは、ハモリのポイントとなる場所を捉えられること、またアルペジオなど他のパートと違う動きが確認できます。
薄い線は音符の移動による強弱(抑揚)の確認ができます。
特にベースラインはどのように動いているかを確認する際に、このラインを引く作業がいいと思います。これこそ観察と言える作業なので、楽譜を眺めることは是非試してほしいです。
音の間隔
楽譜を眺めたところで音に注目していきます。
まず「和音」について、「和音とは2音以上の音を同時に鳴らしたときに生じる合成音」のことです。例えば「ド」と「レ」を鳴らすと言葉では表しにくい音になると思います。これはドとレの間隔が近いために生じる合成音です。
「間隔」はとても大切なキーワードです。
あまり詳しく話しすぎるとややこしくなるので、イメージしてほしいものは“色表”です。
例えば、赤とオレンジは別の色ですが、
赤の色を少しずつ変えていくと、
ある一定のところでオレンジに変わります。
これを音にした場合、ドとド#が隣合わせで存在するイメージを持っていたとしても、厳密にはある程度距離が存在し、徐々に音が変わることでドからド#へ変わるわけです。これがピッチということになります。また、ドとミを同時に鳴らすと綺麗な合成音になるのは、基準となる「ド」の音から「ミ」までの間隔が関係しています。
不思議なことは、例えば最初に話した「ドとレ」を同時に鳴らすとガチャガチャしていたのが、ドとレとミを同時に鳴らすと少し落ち着いた感じになります。この、ある音とある音を鳴らしたとき、どんな感じになるのかという「感覚」も大事にしてください。
和音(コード)のイメージ
音色を感覚的に掴む
和音(コード)には種類があります。
大事なのは、その種類ごとに奏でる音色のイメージを感覚的に掴むことです。
例えば、一番わかりやすいのは
「メジャーコード」と「マイナーコード」です。
キーボードが近くにあったら押してみてください。
メジャーコード=明るい、マイナーコード=暗いと感じることができます。
このように同じ3音の重なりでも印象はだいぶ変わってきます。
そして、その印象を変えているのは誰か(どの音)が重要です。
そもそも和音について全然わからないという方は、
わかりやすくまとめた内容を過去に書いてますので、
そちらを是非ご覧ください。
3度は舵取り
話は戻りますが、印象を変えている音が大事な理由は、その音を誰に歌わせるかに関わってくるからです。例えば、メジャーとマイナーであれば、3度が決め手となります。
この絵を見ると、ドを基準に2つの音がさらに追加されて、CメジャーとCマイナーが作られています。C=1度として、3度=EまたはEb 5度=Gなので、メジャーかマイナーの決め手は3度になります。
つまりコードにおける3度の立ち位置は、明るい印象にするか、暗い印象にするかの舵取り的な立場と言えます。よって、コードの基準となるルート音、舵取りの3度は欠かせない存在になってくるわけです。このように、コードの印象からどの音を重視すべきかを判断し、音を積んでいく必要があります。では、アカペラでよく使われるコードはどのような種類があるのか
そのコードの印象をまとめます。
7thとは
ルート音から7度の位置に当たる音を合わたコードを7thコードと言います。1・3・5・7度で構成されたコードを四和音と呼びます。
このコードは都会的かつ大人な雰囲気を感じることができることから、
ジャズやモダン的な音楽で活用されることが多いです。
例えば、椎名林檎さんの曲には7thが非常に多く使われています。
テンションコードとは
まず、「テンションコード」の定義について触れたいと思います。
テンションコードは9th、11th、13thの3つです。
テンションとは、あるルート音に対して9度、11度、13度の音を呼びます。その音を加えて構成されたコードを「テンションコード」と呼びます。
なお、add9と9thを一緒と思っている方がいるかもしれませんが、厳密には違います。
9thは7thに乗せるのが基本で、
CM7(9)と言ったように表記されます(すごく重要なことです)。
テンションコードは音を積んだことで生まれたため、
テンションに関わる音自体は2、4、6度となります
(テンション−7度と考えましょう)
テンションコードは繊細な響きかつ緊張感(張り詰めた感じ?)がありますが、このテンションコードが入ることで、よりアレンジに磨きがかかります。
sus4と6th
ここまでくると段々とわかってきたかと思いますが、sus4は4度の音、6thは6度の音を構成音としているコードです。sus4の特徴は3度の音を4度に変えている点です。
あれ?舵取りの3度を無くしたら大変じゃないか、
と思った方、、、、
素晴らしいです!!いや、むしろすごい!!
そう、メジャーでもマイナーでもないので宙ぶらりんのような状況です。
つまりどこかに落ち着きたい・・・そうだメジャー(安定)に向かおう!とするコードです。つまり4度→3度という流れで音を変えると、綺麗な進行になります。
このような点から、このコードは「次に何かが待っているぞ」感を出すコードと思ってください。
さて、6thは6th単体を3音に加えるより9thと一緒に使うことが多いです。ボサノバで多く使われ、ハワイアンチックな響きのイメージになりますが、僕はよくイントロ終わり6thを活用しています。理由は、6thのイメージとして独特な明るさを兼ね備えているからです。イントロはイントロで完結させたいので、一つの物語が終わったから曲に入るぞ感を出すために6thをイントロ最後に持ってきています。
1:45~くらいのイントロ終わりがまさに6thを持ってきています。
これが1:46あたりの楽譜です。文字が重なっていますがEb6(9)です。
このように、コードにはそれぞれ響きのイメージがあります。
イメージや感覚なので、要は抽象的なものです。
つまり普段の練習において、例えばテンションコードについてわからなくても、響きに対する自分のイメージを言葉にすることも十分な練習になります。これなら、音楽の知識は必要ありませんよね。
さて、ここまでコード(つまり単音の積み)について話をしましたが、次は横の流れについてです。そのために、まずはボイシングに触れていきます。
ボイシングと進行
ボイシングとは
結論として「コードにおける音の積み上げ方」のことです。
例えば、コードC=ド・ミ・ソですが、これは必ず下からド・ミ・ソにしなさいということではなく、「ド・ミ・ソ」の3音であれば、下からどのような順番で積み上げてもCになるということです。
転回系という言葉も重要ですが一旦省きます。積み方(ボイシング)の決定には3つのルールが存在し、これがアレンジする上で大事になってきます。
1.音と音の間隔
2.音を並べる順番
3.重複させる音の選択
積み上げる際、音の間隔によって響きが変わります。
音の間隔が狭い積みを「クローズド・ボイシング」、広い積みを「オープン・ボイシング」と呼びます。
クローズドは硬めの響きで重厚感があり、
音の厚みをしっかり出すことができます。
一方でオープンの場合は間隔が広い分、
音の粒が際立つ響きになります。
アカペラにおいては、ベースと一番低いコーラスがオクターブ以内の関係が理想です。
何故、ボイシングの話を先にするかというと、
演奏していて何か薄いなという悩みがある場合、
ボイシングがうまく作られていないからです。
重複と省略
先にまとめます。
1.3度どおしの重複は避ける
2.ルート、5度の重複は良い
3.省略するなら5度
そもそも重複とは、言葉の通り「重なる音」のことです。
Cメジャーはドミソで構成されますが、
ベースにドを置いた時に、3声コーラスではドの音がどこかのパートに入ると重複になります。安心してください、全く問題ありません。ただし、3度の重複は響き的に微妙なので外しましょう。
また省略するなら5度の理由としては「倍音」が関係してきます。
音は、実は複数音の集合体のようなもので
・・・といってもややこしいので、
ルート(1度)の3倍音で完全5度が鳴るためです。
例えばテンションコードのボイシングは、
1(ルート)、3、7、9といった積み方で
5度を省きます。
この方の記事が参考になります。
アレンジしているうちに、和音をどのように積むかを悩むことは多いので、このような重複と省略も注意すると良いです。
横の流れ
ここまでの話はコードの話、つまり縦についての話でした。
次は、横の流れについてです。
横の流れとは音の移動のことで、
アレンジの添削あるあるは、急に音が飛ぶという演奏者にとって地獄のような楽譜に出会うことです。
ボイシングにおいて横の流れも意識する必要があり、
そのためルールが決められています。
が、初心者がそこまで意識をすると苦しいと思うので、
2つだけ意識してほしいです。
①近しい音に飛びましょう
②共通音があれば、それは動かさないようにしましょう
近しい音になるように、また共通音が並ぶように転回を駆使して音を配置しましょう。
まずコードどおりに
カバーに限った話になりますが、楽譜をいざ作成するときはカバーする曲のコードをまずは原曲通りに打ち込んでみることをお勧めします。もちろん、しっかりボイシングを意識してください。だんだんアレンジをやっていくうちに、代理コードなど覚えてくると使いたくなりますが、まずはコード進行を考えるよりも、しっかりと考えて歌いやすいボイシングを構築する方が大事です。そして、打ち込んでみたコード単体の響きと、曲全体の響きを感じましょう。
ここからの応用として、別スケールのコードを採用するなど、テクニックとしては様々あります。しかし、あまり手を伸ばしすぎても逆に楽譜が方向性を見失ってしまいます。そのため、方向性を見失わないようにするためにも、まずは原曲のコードをもとにどうアレンジしていきたいか固めて、基礎的なことからゆっくりとやっていくといいと思います。
アレンジで大事なこと
抑揚を意識したアレンジ
僕は、これまで6人で結成するバンドがほとんどでした。
ボイスパーカッションを含む6人結成の場合、
基本的にコーラスは3本となります。
そのためボイシングに関しては省略する音が少なく、
とりあえずコード通りに積めばアレンジは完成していました。
しかし、曲の中で上手く抑揚をつくれない悩みにぶつかりました。
声量によって抑揚を変える方法はもちろんありますが、
アレンジ段階から曲に抑揚を生み出せなければ、
声にしても飽きてしまいます。
では、どのようにして抑揚をつけていけばいいのでしょうか。
知り合いのアレンジャーに相談し、アドバイスを頂きました。
コードは2音で成り立つ
コードの定義は、2音以上が重なり合うことによる合成音です。
つまり、ハモりは最低2音あれば成り立ちます。
曲の中で抑揚をつけるには、
全てのコーラスラインにおいて全員にハモらせることを意識するのではなく、楽譜全体を見通したときに「引き算の考え」を持つことが大事です。声で抑揚を調整することはできますが、コーラスラインが存在する限り限界があります。それであれば、あえて静かにしたいところはコーラスを2本だけにする、またはリードのメロディーにのせたトップラインのみで構成する場所を設け、そのあと全員にする方が抑揚はつけやすいです。
群馬大学アカペラサークルOBOGのho-opさんがカバーしているTomorrow never knowsを参考になります。Aメロの部分はサビに向けて静かめな構成となっていますが、全員でハモリを設ける箇所と、一人がバックでメロを歌い、他2本がコーラスといった箇所が分けられています。
抑揚グラフ
抑揚グラフとは、曲中における抑揚の分布をメンバー間で統一するためのグラフです。といっても、これは勝手に作って命名しただけなので、音楽用語でも何でもありません。
クレッシェンドなど、部分的に抑揚をつける記号はありますが、
曲全体で見たときに、その部分はどれだけ大きくすればいいかなどは、
なかなか言葉だけでは伝わりにくいものです。
これは実際に練習で使用した抑揚グラフです。
縦軸が抑揚の%、横軸が曲の経過になります。
そこで、グラフ化させることで可視化させることにしました。この抑揚グラフをアレンジ段階からイメージしておけば、先ほどの「引き算」を活用してうまく構成することができます。また、抑揚のことを”ダイナミクス”とも言い、曲の中におけるダイナミクスの形成は、アレンジャーだけでなくメンバーでの話し合いによって構成段階から決めることもできます。
ダイナミクス
曲のダイナミクスについては、
原曲に寄り添う必要性はないと思います。
もちろん、アレンジをはじめたての場合は、
極力原曲に沿った形でのアレンジを行うほうがいいですが、
慣れてきたのであれば曲の中でダイナミクスをうまくコントロールすることで、より聴き手を楽しませるアレンジになるはずです。
例えば、原曲ではあまり強く出ていないイントロを、
あえて強調させ、出だしにインパクトを与える聴かせ方などのテクニックができます。
また、落ちサビを設けて大サビに向けた準備をするなども、よくあるアレンジのテクニックです。どこに聴かせたいポイントをもってくるかということも、考えながらアレンジを行うと面白いですよ。
スキャット・シラブル
スキャット・シラブルは、擬音の発声によって曲の雰囲気を作り出すことを言います。「ahー」や「uhー」など楽譜に書かれているあれです。僕もやりがちだったことは、スキャットを書かずに楽譜をメンバーに渡して、あとから皆でスキャットを決めることでした。そして何も考えず、とりあえず歌いやすいようにスキャットを決めてしまうことです。実は、この方法は効率が悪いこと、そして楽譜はよかったのにスキャットで響きが崩れてしまうといったような影響も出てきます。どのような点に注意するべきでしょうか。
母音を合わせた言葉選び
母音を揃えることは響きに関わる大事なポイントです。もちろん、全てのスキャットを揃える必要はありませんが、聞かせどころや伸ばす部分などは揃えるとより響きやすくなります。
suisaiさんがカバーしている「みなと」を例に見てみましょう。1:06あたりで「君ともう一度 会うために作った歌さ」のコーラス部分が、まさに母音をそろえたことで見事なハーモニーとなっています。
では、誰に揃えるべきかと言えば、それはボーカルです。これはコーラスのスキャットの話になりますが、歌詞に合わせた母音の統一を意識するだけで、よりハーモニーを際立たせることができます。ボーカルが全音符でahの母音を使っているのに、uhでハーモニーを作ってしまうと、ボーカルとコーラスが解離して聴こえてきます。もし、テンションを際立たせたいのに、そのようなスキャットを選んでいたとしたら勿体無いです。
スキャットの統一
また、たまにあるのが1番と2番で同じ箇所におけるスキャット違い。アレンジに意図があるのであれば、それをコーラスに言って納得してもらえばいい話ですが、非常に覚えにくいことを理解しましょう。最終的に暗譜したときに、頭にスッと入ってくるスキャットにすることもアレンジャーの大きな仕事です。または、メンバーでの話し合いにおいても、この意識を持って臨むことが大事です。
字ハモ
主旋律の歌詞に対し、合わせて歌うときなどに使用する字ハモ。ここにスキャットの選び方は関係ないと思われますが、よくやりがちなことで「字ハモだけで意味が伝わらない言葉」を置くことです。
例えば「愛してる」を「いしてる」など、
・・・なんの単語?と思われるような感じです。
あまり聞こえないのだから、そこまで気にする必要がないと思われがちですが、これはプレイヤーが演奏中においてのイメージにも関わってきます。「愛してる」と歌うのと、「いしてる」というよくわからない単語を歌うのでは、感情の込め方が変わってきます。そのような点も気をつけましょう。
音域
上記でボイシングに関する記載をしました。何故ボイシングがそれほど大事かというと、だいたいアレンジで躓くのが音域選択だからです。僕も昔、音域がよくわからないまま楽譜を書き、「こんな音出せるわけない!」とメンバーに言われたことがありました。何故そのような音を選択してしまったのでしょうか。
原曲フレーズのコピー
印象的なピアノフレーズを楽譜に取り入れたい。そのようなことを何度も思いながら、日々楽譜の製作に臨むことが多いです。やりがちなのは、そのフレーズをそのまま楽譜に落とし込むことです。もちろん、音域の兼ね合いを考慮しているのなら問題ありませんが、何も考えず落とし込むと実はトップラインがやたら高かったりすることになります。僕もかなりやりがちなことでしたが、フレーズを完璧に写すより音域を優先にすることが大事です。
どのあたりの音域がいいのか
これは極端なことがない限りは、この音がベストという答えはないと個人的に思います。ただ、経験から大体はこの辺りということを書くと、
トップ→ Mid C2〜 Hi E1
2nd → Mid A2 〜 Mid G2
3rd → Mid F1〜 Mid E2
Bass→ Low E 〜 Mid B1
です。ただ、楽曲の中でこの音域を超えて部分的に使うことも全然あります。また、音域選択のとき限界音として出せる音と、綺麗に歌える音は違うことは忘れないでください。きついなと思う1〜2音差くらいが丁度いいと思います。
カラオケでの音域確認は意味ない
音域を見定めるために、バンドメンバーでカラオケに行って確認することがありました。しかし、今思えばあまり意味のないことでした。理由は、コーラスとボーカルでは発声が違うこと、アカペラの環境と異なることでした。発声が違うというのは、メロディー(歌詞)を歌うときと、コーラスを歌うときで、舌の位置による口腔の違いや、呼吸の違いということです。音域を知りたいのであれば、やはり発声練習のときにピアノのみで音を鳴らしながら調べ、先ほどの限界音から1〜2音くらい余裕を持った音がいいと思います。
見やすい楽譜の提供
ここまで「抑揚」「スキャット・シラブル」「音域」について書きました。さらに、アレンジャーとして意識すべきこととして、楽譜の見やすさに拘ることをおすすめします。別に楽譜はバンド内だけ共有するものだから、、と思うかもしれませんが、見やすい楽譜であればあるほど練習効率が上がると断言できます。
では、見やすい楽譜のポイントは何か書きます。
・歌詞とスキャットが書かれていること
・4小節で区切られていること
・リハーサルマークがついていること
・音符をごちゃごちゃさせない
それぞれについて解説します。
歌詞、スキャットは最低限
アレンジしていて常々思いますが、歌詞とスキャットって書くの面倒くさいです。AIで自動的に楽譜反映してくれるのであれば、どれだけ楽かと思ったこと何度もあります。
しかし、歌詞とスキャットが書かれていない楽譜を逆に渡されると、
自分はどう歌えばいいのだろうと困惑してしまいます。
まさに上のような状態で渡されたとき、
一つ一つ確認するのも大変ですよね。
楽譜を渡してから書き込むのもありですが、できれば書き込んで渡すことで、練習時間に無駄が生まれずに済みます。また、楽譜が渡されて最初に聞くときに、スキャットがあるのとないとではだいぶイメージが変わってきます。見やすい楽譜を意識する第一歩は、まず最低限として歌詞とスキャットは書くところからです。
4小節で区切られていること
これは、あまり僕も意識していなかったことでしたが、中途半端に小節が区切られていたり、印刷したときにページごとに小節数が違っていたりなど、実は少々見にくい楽譜になっているときに4小節ごとに区切るのは最適です。こちらを行うことで、楽譜がだいぶ見やすくなります。
musescoreでの区切りかたは、パレット→レイアウト→「段の折り返し」を活用することで、折り返しができます。
左上のマークが区切り(折り返し)です。
リハーサルマーク
そもそもリハーサルマークってなんだ?という人も多いと思います。ようするにこれです。
このマークがないと、小節番号で共有し練習する必要があります。必須というわけではないですが、極力つけた方がわかりやすい楽譜になります。また、リハーサルマークをつける際、必ず区切り線は縦二重線にしましょう。
音符をごちゃごちゃさせない
うまく言葉が見つからず「ごちゃごちゃ」という表現になることをお許しください。音符に統一性がないと、どうしてもリズムがとりにくい楽譜になります。そのため、見やすい楽譜にするためにも、音符には統一性を持たせましょう。
このほかにも、コードマークをつける、スラーを設ける、音量記号(mpやff)をつけるなど様々ありますが、全てをつける必要はないと思っています。あったら丁寧だなと思いますが、それをやり出すとアレンジャーにとってかなり負担なので、そこからは手書きで書き込んでいった方がいいと思います。
楽譜全体に統一感を
以前添削した楽譜で、箇所ごとに見どころを詰め込んだ楽譜がありました。ボイシングも問題なく、しっかりと作り込まれた楽譜でしたが、あまりに見どころを詰め込みすぎて、逆に飽きる楽譜と思えました。
見どころを分散させることは決して悪いことではありませんが、統一性を持たせることが大事です。統一性を持たせるために、まず1番を作り込んだら、後半は1番をベースに作り上げていく意識を持つといいです。または、イントロで印象的なフレーズを用いたのなら、それをどこかのコーラスラインに入れるなどするだけでも、統一性が出てきます。
ハモネプ2023優勝バンドの「うたかるた」さん。
この曲のアレンジは、字ハモからのスタート且つアルペジオとなりますが、最後の方でもアルペジオを続けて終わっています。すごく曲の初めと終わりに統一感があって良いなと思いました。
そして統一感を出すポイントとして、ストーリー性を作ることも大事です。そのストーリー性が、のちにオリジナリティーへと変わっていきます。そちらは次の章でお話しします。
音楽を作る
みんなで曲を作り上げる
ここまでアレンジの基礎からテクニックについて触れてきました。こう見ると、アレンジャーは考えることが沢山ですね笑 挑戦したい方に対して、逆にやる気をなくさせてしまったらすいません。
しかし、これだけのことをアレンジャーは行う必要があるということ、またそれをアレンジャー1人に負担させないことがバンドメンバーにとって重要であるということです。アレンジャーは考えることが沢山ですが、みんなで考えることができることもあります。それが「アレンジ構想」です。
アレンジ構想
やりたい曲が見つかってから、いざアレンジをスタートするときに、ある程度完成イメージを構想します。オリジナルもカバーも関係なく、この構想を踏まえて曲が作られるため、どのような曲にしたいかはとても大事です。その構想に音楽知識は必要ありません。ここで大事なことは、あなたのイメージを言語化させることと、メンバーとの話し合いです。例えば、「さくら」のアレンジを行なったときは、それぞれが持つ曲のイメージと、さくらの花や木についての印象を話し合いました。
イメージの言語化
イメージを言語化させるのはとても難しいことです。それは練習するしかありませんが、まず曲を聴いた感想程度は共有するようにしましょう。そこからより具体化させていくために、曲にまつわる話をしたり、部分的に「色」として例えたりなど、やり方は様々です。色は特に言語化しやすく、僕もよく自分のバンド練習で使います。先程の「さくら」のように、個々が持つイメージや感情を共有することで、より楽譜が書きやすくなったりします。何より、バンド内のコミュニケーションにもなります。
心の瞳をアレンジした際のメモ・・・とにかく殴り書きのように思いついたことはどんどん書き、アレンジに落とし込みました。
オリジナリティー
カバー曲が多いアカペラにおいて、バンドにはよりオリジナリティーが求められます。オリジナリティーが感じられるかどうかの基準は明確にわかりませんが、上記のように構想をメンバーで考え、共有できているかどうかで、だいぶ聴いた時に感じる印象は違ってくるので、やはりそのような点にオリジナリティーを感じるのだと思います。音楽は抽象的なものであり、そこに良さがあります。個々の感じることを共有し、みんなで一つの音楽を作り上げる意識を持ちましょう。
支え合う大切さ
約15年楽譜づくりを行う中で、「アレンジは孤独との闘い」と何度も思い続けてきました。曲によりますが、長いときで1ヶ月近くかけて1曲を仕上げるわけで、学業・アルバイトや仕事と両立しながらだとかなり大変です。僕も出張先のホテルで、仕事終わりに黙々と楽譜を作ってました。
今回アレンジについて書きましたが、みんなで作り上げることは非常に重要であると伝えたいです。これはアレンジをする側も、バンドメンバーも両方が意識して声を掛け合うことがいいのだと思います。アレンジは、なかなかお願いをしにくいものでして、「歌詞書くよ」とか「コード打ち込むよ」など、そのような声かけはアレンジャーにとって非常に嬉しいものです。
最後に:アレンジを続けて15年
大学1年生の頃、部室の棚には紙に手書きで書かれたアカペラの楽譜がありました。僕のさらに先輩が書いたであろう楽譜、綺麗に書かれた音符が今でも記憶に残っています。昔を懐かしむことをあまり好みませんが、楽譜作りは15年でだいぶ進化を遂げたなと感じています。そして環境も大きく変わりました。
この夏に、アレンジャーにとって素晴らしい本が出版されます。
1冊目は、「新アカペラパーフェクトブック」
著者はあっしーさんです。
僕が学生の頃「アカペラパーフェクトブック」が発売され、その第二段となる本が出版されるということです。あっしーさんの本に助けられたアカペラーもきっと多いと思います。全てのパート、アレンジ、練習方法に対してわかりやすく解説しており、今回僕が書いたブログで書いていないこともたくさん書かれています。
2冊目は、「アカペラスタイル」
Nagie Laneでお馴染みのバラさん(baratti)と、僕も大好きなお友達の かくたあおい君共著・監修のアカペラ本です。8/17発売ですが、もう楽しみで仕方ないくらい濃い内容間違いなしの本です。
このように、15年の間にアカペラが世の中でさらに広がり、そしてアレンジャーにとっても、より自身のアレンジに磨きをかけれるような環境が作られています。もちろん、これからアレンジを始めたい!という方にとっても、たくさんの人が支えてくれるような環境が整っていると思っていただいて良いと思います。そこが、この15年でのアレンジ界隈の進歩だと個人的に感じています。
僕がこうして約15年間アレンジを続けてこれたのは、ただただ自分で音楽を作ることが楽しいからということだったように思えます。何事も「楽しい!」という気持ちは大事です。これからも楽譜を書き続けますし、また皆さんとも情報を共有して、アカペラを盛り上げていきたいと思っています。
ブラザー