チキンライスをアレンジャー目線で聴いてみた【アカペラアドベントカレンダー企画】
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この記事は、「アカペラアドベントカレンダー2020」の3日目の記事です。
◆アカペラアドベントカレンダー2020
https://media.acappeller.jp/feature/8105/
12月となりました。久々に記事を投稿します。
今年も"アカペラアドベントカレンダー”企画に参加させていただくこととなりました。どんな記事を書くか悩んでいた時に、たまたまYOUTUBEで聞いていた「チキンライス」がクリスマスソングということもあり、アカペラアレンジャー目線として曲の分析を行ってみようと思いました。
チキンライスはどんな曲か
音楽番組からの誕生
作詞は松本人志さん、作曲は槇原敬之さん、そして浜田雅功さんがメインで唄を担当するという、非常に豪華な曲となっています。ダウンタウンが司会を務めた、フジテレビの音楽番組「HEY!HEY!HEY!MUSIC CHANP」に槇原さんがゲスト出演された際に、浜田さんが作曲を依頼したことがきっかけで誕生した曲です。番組の中で、浜田さんが「これに歌詞書かせるから」と指名されたのが松本さんでした。番組内では、松本さんからのOKは出ず、収録後の打ち合わせでOKが出たことから曲作りがスタートしました。
クリスマスソング=恋愛ソングというイメージの脱却
定番のクリスマスソングは”恋愛”をテーマにした曲が多いですよね。BOA「メリクリ」桑田佳祐「白い恋人達」、稲垣潤一「クリスマスキャロルの頃には」、松任谷由実「恋人がサンタクロース」、山下達郎「クリスマスイブ」・・
例えば、私が「クリスマスソングを作って欲しい」と言われたら、おそらく上記のように「クリスマスソング=恋愛」をイメージして作ると思います。ただ、松本さんは悩んだ結果、「自身が子供時代に体験したクリスマスの思い出」をテーマに作詞されました。これまでのイメージを覆す、斬新な作詞となりましたが、出来上がった歌詞を第一に見た槇原さんは涙を流して感動しました。この点も、アレンジを行う上で重要になってくるポイントです。
では、そのような曲をどのようにアレンジして行くか。
実際に、1からアレンジを行うという想定で進めて行きたいと思います。
アレンジの組み立て
どの方向から組み立てるか
あくまで、個人的な楽譜製作のやり方ですが、アレンジを行う前には必ず背景を調べ、どの方向からアレンジを組み立てるか考えています。過去にアレンジした曲で言えば、
心の瞳・・・坂本九さんの人生をベースに組み立てる
ベイビーアイラブユー・・・曲のリズムから組み立てる
マリーゴールド・・・PVで伝えたいことから組み立てる
歌詞とコードだけでなく、様々な素材を確認した上で、どの素材が自身が楽譜を作っていく上でイメージしやすいかを考えています。
わかりにくいので、もう少し詳しく書きます。
「心の瞳」をアレンジした時の話です。
曲調や歌詞を確認した際に、「合唱」というイメージが強くありました。いざ、楽譜ソフトにメロディーとコードを打ち込んだところ、やはり合唱っぽくなり、そこでこの「心の瞳」がなぜ作られたのか、さらに坂本九さん経歴なども合わせて調べました。激動の昭和という時代のなかで、下を向きがちな日本人の心を明るくするために、ポジティブな曲を数多く誕生させてきた人生観、そして家族への想いを込めた曲と知った時に、転調部分でマッシュアップさせることや、ユニゾンの多様化、アウトロでのオリジナルメロディーを思いつきました。”どんな曲として聞かせたいか”という考え=アレンジの組み立てと考えているため、何をベースにするかは非常に重要だと思っています。
さて、チキンライスに戻りますが、
この曲は圧倒的に「歌詞」だと思います。松本さんがどのような想いでこの歌詞を書いたのか、そのような点からアレンジを組み立てて行きたいと思います。
歌詞から考えるチキンライス
曲は「歌詞から考える」「曲から考える」2つの方向からの製作があります。前回、AI編でお話をした際に、AI美空ひばり「あれから」の作詞をした秋元康さんは、ベースとなる曲を選定した後に歌詞を考えられました。
今回は「歌詞」に対して槇原さんが曲を載せるように作成したため、歌詞を重視することは非常に重要となってきます。
過去と現在を織り交ぜた歌詞構成
サビ以外のそれぞれの歌詞では、「子供の頃の想い出」と「現在の自分の気持ち」を織り交ぜ、思い出を振り返るような歌詞となっています。焦点は自分に常に当て、独り言のように歌うのが特徴的です。
1番最初に出てくる「親孝行ってなに」というキーワードこそ、まさにこの曲のテーマだと感じました。”貧乏だった子供の頃の自分が、クリスマスは贅沢をしていいはずなのに、親に気を使って注文するのはチキンライスだった”。松本さんが子供だった1970年代は、高度経済成長期の最中でした。この曲が発売された2004年に比べれば、まだまだ貧しい家庭が多かった時代です。そんな”今”と”過去”を比べて「クリスマスに美味しいものをたくさん食べて、プレゼントをもらったりすることは幸せなことなんだよ」ということを訴えたかったのだと思います。
当時の様子をイメージさせるキーワード
曲の途中にさらっと出てくる「酸っぱい湯気が立ち込める」というキーワード。これがすごいですね・・・。曲のタイトルである”チキンライス”を、3番の歌詞でさらにイメージを掻き立たせるテクニックがこのフレーズです。この歌詞があるだけで、頭の中にはチキンライスのイメージが強く残ります。
豪華なものは何か
「七面鳥」「でかいケーキ」「赤坂プリンス」など、自分が思う贅沢が歌詞の中に散りばめられています。特に「赤坂プリンス」は強烈です。当時の自分には七面鳥を食べることすら贅沢なのに、さらにそのさきにある贅沢を強調しています。「赤坂プリンス押さえとけ」という命令する口調も、子供では不可能ですが、自分が大金持ちになった時にこんなことをしてみたい!という夢の象徴ですね。ただ、「スイートまでは言わないが」という遠慮が入ることで、子供らしい可愛らしさが伺えます。このような細かいキーワードも、この曲を強調するものであるため、しっかりと拾うことが大事だと思います。
曲から考えるチキンライス
三連符のメロディー構成
チキンライスは、三連符のメロディーで組まれています。この三連符のメロディーを用いることで、曲に進行を与えることになります。理由は、音符との間隔です。4分音符では1とすると、8分音符は0.5、3連符は0.33となります。最後の音符が前のめりとなるため、このことから曲に進行を与えるわけです。例えば、ドラえもんの歌や、Sweet memoriesがそうですよね。進行だけでなく、バラードにおいては曲自体に余韻を残すこともできるために、情景を思い起こす効果もあります。
さらっとテクニックを入れるコード進行
すごく単調な曲かと思いきや、さすが槇原さん。素敵なコードのテクニックを使用されていました。
①サブドミナントを並べないよう、ドミナントをonコードにする
②ブルージーな雰囲気を出す7sus4の活用
④サブドミナントマイナーの活用による表現
セカンダリードミナントについてはこちらの記事がわかりやすいです。
セカンダリードミナントは、槇原さんの他の曲では「もう恋なんてしない」のBメロ冒頭で使用されています。
槇原旋律によるテクニック
「槇原さんの曲って、槇原さんっぽいよね」
そりゃ、作曲家がそうなのだから当たり前かもしれませんが、なぜか槇原さんの曲のように聞こえるのは、旋律にあると思います。サビの後半に連れて高音が強調されます。「世界に一つだけの花」も、花に向かって徐々に音が高くなっていきます。また、名曲「どんなときも」も、「僕が僕らしくあるために」の部分はサビのスタートから一気に高音となっていく旋律ですよね。チキンライスは「七面鳥はやっぱり照れる、やっぱり俺はチキンライスがいいや」と、やっぱりを頂点としてそこまで高音になっていく旋律になっています。このような旋律が、聴いている人の心に刺さるようになっているのだと考察しました。
クリスマスにぜひ聴いてほしい曲
チキンライスをアカペラアレンジするときは、上記のようなポイントをおさえることが大事だと考えます。松本さんの神レベルの作詞と、槇原さんのテクニックが見事に調和した曲だと改めて記事を書いて思いました。
何よりも、聴いている人や世の中に訴えかける曲であり、「みんなが当たり前と思っていることは、実は幸せなことなんだよ」というメッセージが込められていると感じました。最近ではX JapanのToshiさんもカバーしており、また昨年はINSPIさんもアカペラアレンジとしてカバーをYOUTUBEで公開しています。2004年の発売から16年が経ちますが、本当に名曲とよべる作品だと思います。皆さんもぜひ聴いてみてはいかがでしょうか。そして、アカペラでアレンジしてみたよ!というアレンジャーがいらっしゃれば、是非聴いてみたいのでご連絡をいただけると嬉しいです。
Toshl - 「チキンライス」【11.15先行配信スタート!】
【譜面付】チキンライス/浜田雅功と槇原敬之 INSPi【本気でやってみた】
明日からもアカペラアドベントカレンダー企画は続きます!皆さんの記事を私も非常に楽しみにしています♪引き続きお楽しみください。
それでは!